不動産と株式は同じ事業に投資するための異なる通路だ

不動産と株式は同じ事業に投資するための異なる通路だ

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

不動産の賃貸契約と内部に設置する機材設備等のリース契約を統合し、かつ賃料を業績連動にすれば、株式と同等の性格を帯びた投資対象を創造できる。
 
 不動産の賃貸において、どの範囲まで賃貸の対象に含めるか、即ち、貸主の側で、どこまで内装や機材の設置を行うかは、全く任意のはずです。例えば、家具付きの住宅の賃貸は、日本では一般的ではありませんが、それが珍しくない国もあります。しかし、日本で普通に不動産の賃貸といえば、着脱可能な内装や設備等の動産を含めずに、純粋な不動産だけを対象にするものです。
 そこで、J-REIT、即ち、不動産投資法人の場合にも、純粋な不動産に限って投資対象にされています。ただし、これは、背後に制度上の理由があって、税制の特例として、一定の条件を充足すれば、事実上、法人税が課されないことに関係しているのです。つまり、例えば、データセンターの全体、即ち、土地建物と内部の装置を一体化させたものを賃貸に供することは、不動産の賃貸という投資事業ではなく、データセンターの運営という実業だとみなされて、税制の特例が認められなくなるわけです。
 
では、データセンターの土地建物だけを取得して、賃貸に供すればいいのではないでしょうか。
 
 理屈上は、確かに、データセンターの土地建物だけを投資対象にすればいいのですが、問題は建物が特殊なもので、おそらくは、他の目的に転用することが容易でないことです。そこで、貸し先がデータセンターの運営事業者に限られるとすれば、借り手がいなくなると、次の借り手を得るのが困難になり得ます。借り手のいない不稼働の期間が長くなれば、賃料の喪失額が大きくなるわけで、故に、不動産投資の対象としては、データセンターの建物は不適当なのです。
 これに対して、例えば、ホテルの建物は、やはりホテル事業者向け専用の特殊なものですが、不動産投資法人の重要な投資対象になり得ているのは、事業者の数が多いからです。ある物件について、そこから撤退する事業者がいても、そこへ新たに参入する事業者もいれば、長期にわたって不稼働となる危険は小さくなるわけです。
 
ホテルの建物の賃貸は、ホテル事業全体の影響を受けてしまうのではありませんか。
 
 倉庫等の物流施設やホテル用建物など、特定業種向けの物件は、その業種に固有の事情によって、業界全体が不振に陥ってしまえば、稼働率の全体的な低下、および、それに伴う賃料の低下が不可避になってしまいます。これに対して、代表的な投資対象が一般事務所向けの物件なのは、借り手の範囲が非常に広くて、特定の業種に偏らないからです。
 こうして、不動産は、借り手の範囲が広ければ広いほど、業種や用途の偏りが小さければ小さいほど、安全な投資対象になります。ここで安全とは、投資の利益の源泉が不動産に固有のものに限定されていて、特定の業種、特定の企業に関わる不確実性を負わないという意味です。この意味での安全な不動産から期待される投資収益率は、不動産に投資するときの基礎的な期待収益率になるわけです。
 
では、ホテル用の不動産の期待収益率は、不動産の基礎的な期待収益率に、ホテル事業に固有の追加的な期待収益率を加えたものでしょうか。
 
 理論的には、期待収益の実現に関する不確実性が大きくなるほど、期待収益率は高くなります。ホテル用の不動産については、その投資収益率がホテル事業全体の動向によって左右されますから、より大きな不確実性を伴うはずで、故に、より高い期待収益率をもつと考えられます。
 データセンター用の不動産の場合には、データセンター事業全体の不確実性のほかに、借り手の事業者に固有の不確実性も加わります。なぜなら、その事業者が破綻等で廃業した場合、あるいは移転した場合、次の借り手が見つからない可能性があるからです。故に、データセンター用の不動産の期待収益率は、ホテル用不動産の期待収益率よりも、更に高くなるはずです。
 なお、念のためですが、期待収益率が高いとは、利回り、即ち、年間の賃料を不動産の時価で除した値が高いという意味です。賃料収入に関する不確実性が大きくなれば、不動産の価格は相対的に低くなりますから、それに応じて、利回りが高くなるわけです。
 
不動産の基礎的な収益率とは、資本コストのようなものですか。
 
 企業は、株式の発行によって資金調達をしますが、当然のことながら、調達資金に対しては、資本コスト、即ち、金利に相当する資金の利用料を支払わなければなりません。企業は、事業活動によって現金を創造して、その現金から、投資家、即ち、資金供給者に対して、資本コストを支払うわけです。
 ただし、どの企業の現金創造も、所属する業種の一般的動向や、個社に固有の事情によって、不確実な影響を受けますから、その影響度に応じて、資本コストに、追加的な期待収益率が付加されます。この構造は、不動産の基礎的な収益率に、不動産の用途や借り手に固有の事情に応じて、賃料収入に関する不確実性が加味されて、追加的な期待収益率が足されていくのと全く同じです。
 
ならば、データセンター事業を行う企業の株式に投資することと、データセンターの土地建物と内部の設備装置等とを一体化させたものに投資することとは、同じになるでしょうか。
 
 データセンター事業に投資する方法の第一は、極めて常識的なことで、事業者である企業の株式に投資することです。仮に、事業者は、土地建物や機材等の固定資産の取得について、必要となる資金の全てを株式の発行によって調達するとします。そして、運転資金を負債で調達するとすれば、貸借対照表上で、流動負債と流動資産が相殺されて、固定資産と資本、即ち、株式の発行額とが均衡します。
 そこで、データセンター事業への第二の投資方法として、土地建物や機材等の設備全体を取得して、事業者に賃貸することが考えられます。この場合、事業者は、運転資金の調達を支えるに足るだけの最低限のものとして、資本を株式の発行によって調達します。
 この二つは、全てが合理的な事業計画のもとで緻密に設計されていて、かつ、実際の事業が計画通りに進行するのであれば、理論的には、ほぼ等しい投資収益を実現するはずです。ところが、事業計画に狂いが生じたときには、非常に大きな差が生じます。
 株式に投資するのであれば、事業実績と計画値との間に差異が生じれば、その差異に応じて、投資収益についても、同じ方向に差異を生じます。土地建物や機材等の設備全体に投資するときは、事業実績に関係なく、事前に定められた賃料が発生するので、投資収益は変動しません。なお、実績が計画を下回れば、債務超過に転じ得るので、実は、最低限の資本では足りず、計画の狂いを吸収し得るように、資本に厚みをもたせておく必要のあったことがわかります。
 
賃料を事業実績に連動するようにすれば、株式の発行は最低限でいいのではないでしょうか。
 
 土地建物や機材等の設備全体の賃貸契約に技巧を凝らして、事業の不確実性を賃料の変動で吸収してしまえば、土地建物や機材等が株式的な性格を帯びて、その投資収益率の期待値も、株式に近似するはずです。こうして、株式に近似する投資対象を開発することは、既に株式という便利なものがあるなかでは、実益がないと考えられますが、株式による資金調達が困難、あるいは不可能な事業主体にとっては、意味があり得るわけです。
 そうした事業主体としては、規制によって、企業化が禁止、もしくは制限されているものが考えられます。典型的には、病院や農業事業者です。もちろん、現状では、例えば、病院の土地建物と内部の医療用機材の一式をまとめて取得し、それを病院に業績連動の賃料で賃貸することは、脱法行為に認定されてしまうでしょうが、将来的には、制度設計の一つの方向にはなり得るでしょう。また、零細な個人事業主にとっては、不動産の賃料や機材のリース料が業績連動になることには、それなりの利便性があるでしょう。
  ≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
不動産投資における投資対象は不動産ではないのだ(2022.4.7掲載)
不動産投資は、不動産に投資することではなく、不動産から生じる賃料収入に投資することです。

金融界の旧弊に挑戦する事業性融資推進法の創造的破壊力(2024.6.27掲載)
2024年6月7日に企業価値担保権の創出を中核とする「事業性融資の推進等に関する法律」が成立しました。この法律は、不動産などの有形資産担保重視の融資姿勢をあらため、債務者の現金創造能力を評価する本来の融資のあるべき姿に戻ることを志向するものです。

今こそ株式投資の基礎理論を学び直すべきとき(2024.7.18掲載)
本稿では、株式投資における収益率の変化とその要因がひとつひとつ丁寧に解説され、基本を理解するのに非常に役に立ちます。
(文責:広瀬)

次回更新は、4月9日(木)になります。
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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。